■正雪のご紹介


秋には黄金色に染まる米処、冬には雪に閉ざされる寒冷な気候、そんな所が酒蔵にふさわしい風景のように思いがちです。しかし一年を通して温暖な気候の静岡にも、三十数件の酒蔵があります。そして静岡は地酒ファン必涎の蔵が多いことでも知られています。そんな静岡のほぼ中央、東海道の十七番目の宿場町、今なお古い町並みを残す由比町。ここに『正雪』の蔵元、神沢川酒造があります。酒米の産地ではなく、温暖な気候のなかで苦しい仕込みを強いられた事もありましたが、そうした中から私達は冷蔵タンクや蔵の冷蔵化、山田錦や雄町など、他県の酒米の使用方法を学びました。そして淡麗な酒造りに最も適した弱軟水と、数々の酵母を駆使して、誰かの真似でなく、どこかにある様で、どこにもない自分達だけの酒を目指して仕込みにあたります。本物の日本酒には甘、苦、渋、酸という五つの味と、吟醸香に代表される様々な香りがあり、それらが調和しながら味わいを形造ります。綺麗なお酒には、雑味といわれる不必要な味を極力出さないことが大切です。奥行きのある味わいには、甘味だけでない旨みやこくも必要です。キレの良さには、渋味や苦味を出しすぎず上手く乗せなければなりません。いくつもの相反する要素を調和させ、すべての味を過不足なく引き出した芯のある、しっかりした味わいの中に、上品で爽やかなバナナやリンゴを想わせる香りをバランス良く調和させていく。何杯飲んでも飲み飽きしないキレの良さを持った仕上がりにしていく。この酒質を目指し、蔵人達は五感を駆使して、気候や米、水と対話するかのように麹菌や酵母という微生物の環境を整え『正雪』を育んで行きます。こうして生まれる『正雪』もまた生き物のように表情を変えていきます。お客様の期待を裏切らないよう、新酒から熟成までより良い状態に導かねばなりません。仕込みから管理まで、気配りは絶えませんがお客様の笑顔が見られれば、こんなに嬉しいことはありません。